今回の査定依頼は、「借家」として賃貸中の一戸建です。
もともとは注文住宅で建てられ、お住まいになられておられたお家です。
その後、5年も経たないうちに転勤が決まり、子供も小さかったこともあり一家でお引越しをされました。
転勤から戻ってくるまで、空き家にするよりも借家にした方が、経済的にも家のメンテナンス的にも良いと判断されて貸されておられました。
しかし、戻ってくる予定が完全に無くなったことで、売却の査定依頼をいただきました。
今回の賃貸中の不動産(借家)の売却査定の実例をもとに、“賃貸にした後に売却したくなった場合”に起こるデメリットについてご紹介します。
親から相続した家を「売るか?それとも貸すか?」といった内容の相談も多く、悩まれている方も、是非参考にしてください。

賃貸物件はオーナーチェンジとして売却できる!
不動産の売買には、自分自身や家族が住む「居住用物件」と、借家や借地・アパートなどの「収益物件」があります。
「マイホームを買ったけど、仕事の都合で引越して、今は人に貸している…」
「実家を相続し、使わないので人に貸している…」など、
持家だった一戸建やマンションを賃貸住宅として貸されるケースや、土地活用として未利用地に賃貸アパートを建てたり、月極(時間貸し)駐車場にするケースなどが、この収益物件に当てはまります。
「入居者(借主)がいても売れるの?」と心配される方もおられますが、借主との契約内容(家賃・条件)はそのままで売却することができます。
借主は引っ越すことなく、今まで通りに住み続けることができます。
物件の所有者(オーナー)が変わるので、オーナーチェンジ物件とも言います。
オーナーが変わると、新しいオーナーから所有者が変わったことを借主に伝える必要がありますが、旧オーナーが売却する前に、事前に伝えたり同意を得る必要はありません。
賃貸物件は、売却金額さえ折り合いがつけば売却できます。
賃貸物件売却のデメリット
近年では、不動産会社だけでなくサラリーマン大家など、不動産を投資として購入される方も増えてきましたので、収益物件も人気があります。
しかし、居住用の物件に比べると収益物件は需要が限られるので、売れにくくなります。
また、収益物件は「利回り」と「値上がりが見込めるか」が何より重要視されるので、居住用の物件とは相場が異なります。
“利回り”とは、物件に投資した金額に対する1年間の家賃収入の割合です。
年間家賃収入÷不動産購入金額×100
表面利回りと実質利回りの2つの計算方法があります。
表面利回りは上の計算式から算出できます。
収益物件の購入時には、利回りが何%あるかが、ひとつの検討材料になります。
一戸建やマンション・1棟アパートなどの物件の種類によっても変わりますが、多くの投資家は利回り10%を基準に購入を検討されます。
利回りを考える収益物件としての査定金額は、居住用として売却できる金額を大きく下回ります。
その為、賃貸中の不動産は思うような金額で売却できないことがネックになります。
■築8年
■木造住宅
■月額家賃収入:13万円
■年間家賃収入:156万円
収益物件として、表面利回り10%になる様に金額を逆算すると…
「1560万円」
この金額であれば、オーナーチェンジ物件として“振り向いて”もらえます。
(※注:中古一戸建への求められる利回りは実際にはもっとシビアです)
しかし、この物件を居住用の中古一戸建で販売すると、
「3000万円」程で売却が可能となりますので、1500万円も価格差が生まれます。
■築5年
■分譲マンション・3LDK
■月額家賃収入:12万円
■年間家賃収入:144万円
収益物件として、表面利回り10%になる様に金額を逆算すると…
「1440万円」
JR草津駅近くの区分マンションなので、表面利回り8%に下げたとしても、
「1800万円」
このマンションを居住用の中古マンションとして販売すると、
「3400万円」程で売却が可能となますので、2000万円近くも価格差が生まれます。
立地によっては、将来的に人気が高まり、“値上がりが期待できる物件”もあるので、利回りだけで収益物件の金額が決まるわけではありません。
値上がりが期待できる物件の場合、しばらくは家賃による安定収入を得て、地価の上昇時の売却益を見込んで購入につながる場合もあるので、利回りが多少低い価格設定でも売却できることがあります。
しかし、新型コロナウィルス感染症の経済ダメージはとても大きく、大企業のリストラや倒産が相次ぐ経済状況なので、値上がりの見込みどころか、どこまで値下がりするのかといった心配しかありません。
いずれの場合でも、収益物件の売却金額の設定は、買う人が住む為の価格設定ではありません。
入居者を退去させることはできない
賃貸中の不動産は、入居者がいても自由に売却することはできます。
しかし高く売りたいからといって、入居者を退去させることはできません。
賃貸借契約では、入居者の借りる権利が優先されるため、簡単に退去させることができなくなっています。
賃貸借契約には、「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。
■普通借家契約:期間の定めがない契約
■定期借家契約:期間の定めがある契約
賃貸借契約書に“定期借家”と記載がなければ、普通借家契約で貸していることになります。
定期借家契約の場合、公正証書等の書面によって契約が必要になるので、普通借家契約で締結していることが大半です。
普通借家契約では、契約期間が2年となっている場合が多いと思います。
しかし、これは2年が経てば契約が終了するものではありません。
貸主からの解約は、正当な事由がある場合のみで、無い限り更新されます。
残念ながら、「売却したい」は正当な事由に当てはまりません。
定期借家契約は、期間の定めがある契約ですが、期日を迎える6ヶ月前までに「間もなく契約期限なので、退去の準備をお願いします」と伝えなければ、退去してもらうことはできません。
この様に、賃貸中の不動産の売却は、売る側にとっていいことがありません。
かといって、賃貸にすることが全て悪いわけでもありません。
どうしても不動産トラブルは大金が絡むので揉めがちですが、賃貸中の借主と親身になって話し合うことで解決にも繋がります。
「賃貸中の不動産を売却したい」とお考えの場合も、これから売るか?貸すか?を相談する場合にも、不動産会社選びがとても重要になります。